身近な生活雑貨から環境意識を変えていく。

今回ご登場いただくのは、サザビーリーグ アイシーエルカンパニーのカンパニープレジデントの最所氏と開発担当の矢澤氏。既に第2弾までリリースいただいている、大人気のライスレジン製のランチボックスの開発にまつわるトークセッションをお届けします。

(中央)最所克博
1984年 慶應義塾大学商学部卒、同年三菱商事㈱入社。2017年 ㈱サザビーリーグ アイシーエルカンパニー入社後、ライフスタイルブランドAfternoon Tea LIVINGにて、販売本部長、商品本部長を歴任し、2021年カンパニープレジデントに就任し、現在に至る。

(右)矢澤隆介
2017年 成城大学法学部卒、同年㈱サザビーリーグ アイシーエルカンパニー入社、ライフスタイルブランドAfternoon Tea LIVINGにて販売部、商品計画部を担当した後、2019年 商品開発部 第1商品課に配属。キッチンアイテムの開発をメインに、本企画の開発担当に至る。

(左)神谷雄仁
バイオマスレジンホールディングスCEO。商業施設開発のコンサルタント、食品商社で化粧品・健康食品原料の開発などを経てバイオマス関連事業に参加し、2005年、前身となるバイオマステクノロジー社創業。2017年11月、バイオマスレジン南魚沼を設立。2020年3月、バイオマスレジンホールディングスを設立し、代表取締役CEOとして現在に至る。

環境配慮型商品開発へのチャレンジ

−御社の歴史から教えていただけますか?

(最所)昨年、株式会社サザビーリーグ アイシーエルカンパニーが運営するブランド「アフタヌーンティー・リビング」は40周年を迎えました。創業者の鈴木陸三がスタートした頃は、ライフスタイルブランドの業態が非常に少なく、ユーズドの家具や食器をヨーロッパから輸入して、販売していました。当時としては、イノベーションスピリットがあるブランドだったと思います。現在、国内では北海道から沖縄まで約120店舗ほどを展開しています。

−取扱商品はどれくらいあるのですか?

(最所)約3,000品種あります。一番小さいもので箸置き、大きいものでクッションなどですね。

−環境への取り組みについてはいかがですか?

(最所)私は繊維業界の出身なのですが、ペットボトルを再生した繊維が早くからあったりして、わりと取り組みやすかったんです。しかし、アフタヌーンティー・リビングが取り扱う商品は素材もさまざまで、合成樹脂をはじめ、他にもステンレス、セラミック、繊維など多岐に渡っていて、原料の背景まで遡れるのは御社との商品をはじめ、ほんとうにわずか。環境に対する取り組みについて、業界的に難易度は高いと感じています。

−バイオマスレジン社との最初の商品のランチボックスが発表されたのは、2021年7月のことでした。それまでの経緯についてお聞かせください。

(最所)目標を掲げるのは簡単ですが、根拠がなかったり、実態とかけ離れていたりすると、商品開発担当者も戸惑ってしまうので、お客様にも実際はどうなんだろうと思われてしまうし、非常に悩みました。しかし、昨年の7月に意を決して、アイシーエルカンパニーとしての「ソーシャルグッド宣言」を行いました。

−どのような内容だったのですか?

(最所)スタッフと内容を吟味して、「今、私たちにできること」と題して、次の3つを掲げました。「スタッフの笑顔とやりがいを大切にします。」「環境に配慮したブランドになります。」そして、「ブランドに関わるすべての人とフェアな関係を築きます。」そして、これらを明文化して発表しました。

−「環境に配慮したブランド」についてもう少し詳しく教えてください。

(最所)2024年度の年度末、つまり2025年3月には、私たちの商品の半数を環境に配慮した素材、製造方法にすることを目指そう。ただ、これが非常に難しい目標であることは日に日にわかってきましたが、キリがいい数字で50%と申し上げました。環境に配慮といっても、以前からコットンを使っていますし、当社の従業員もステンレスのマイボトルを持ち歩いています。どこからどこまでを指すのかは難しいところで、今も手探りで考えているところなんですが、宣言をしてよかったと思っています。理由としては、働いているスタッフが自身のブランドに誇りを持てること。もう一つはフィロソフィーも一致させていこうと思えたからです。

まずは、お米との親和性が高く身近なお弁当箱から

−その頃に、ライスレジンと出会われたわけですよね。

(最所)弊社のキッチンアイテム開発担当の矢澤から、ライスレジンについての報告を受けました。柄や製法などの制約はあるけど、是非やってみたいと。現在、ランチボックスのライスレジンの含有率は10%です。たった10%ですが、サーキュラー型じゃない、ワンウェイ型の商品のプラスチックの使用量を10%削減するのは大変なことなんです。何回もメーカーの竹中さんに試作していただき、価格も少し割高ではありますが、想定した範囲内におさまり、商品化に至ったというのが、今日までのストーリーです。

(神谷)開発のみなさんには試行錯誤していただいたと思います。ライスレジンの含有率は30%にもチャレンジしていただきましたし、そのうえで使用感などを踏まえ、最終の商品として10%とのご判断をいただいたわけですから。我々からするとありがたいことですし、何よりアフタヌーンティー・リビングというのは私にとって学生の頃からの憧れのブランドなので。あと、僕が一番嬉しかったのは、開発に携わった方だけでなく、店頭のスタッフのみなさんも、こういった商品を導入したことで、自分たちの仕事に誇りを持つことできるとお聞きしたことですね。実はあまりにも嬉しくて、娘と一緒に都内の何店舗かをまわらせていただいたんです(笑)。そのときに娘がお店の方に、「人気あるんですか?」と聞いたら、「すごく評判がいいんです」と答えていただいて。そういうのを聞くと、こういうところから少しずつ広がって、世の中が変わっていくんだなあ、と実感できました。

−はじめて、「お米からプラスチック」と聞いたとき、どういう印象でしたか?

(最所)本当にできるのかな、加工や色の制約とか、最終的に商品として成り立つのかな、というのは不安でしたね。それからテストを繰り返して商品として問題がないことがわかったので、だんだんと不安も解消されました。

(神谷)最初から、売場に堂々とライスレジンのお弁当箱を出していただいて。特別な商品じゃなくて、普通にあたりまえに並んでいるのがすごく嬉しいな、と。ほんとうに一人歩きし始めたというか。そういう風に感じました。

−矢澤さんにもお聞きしたいのですが。いろんな素材があるなかで、ライスレジンを選んでいただいた理由は何だったのですか?

(矢澤)「ソーシャルグッド宣言」が出た段階で、私の担当の商品にはプラスチック素材が多かったので、そのなかで何ができるかを考えました。他社から、さとうきびのバイオマスプラスチックなどを勧められたのですが、消費者の方にとってあまり身近に感じられない素材だと感じました。それでたまたまランチボックスを開発しているメーカーさんに伺ったときに、御社のライスレジンを使った「お米のおもちゃシリーズ」を目にして。お米からできたプラスチックなら、ランチボックスとも親和性があると思いました。ただ、最所と同じく、私も開発担当者ながら本当にできるのかな、という不安もありつつ、竹中さんが一生懸命がんばってくれて、何度も何度もテストしてなんとかつくりあげました。

−開発にはどれくらいの時間がかかったのですか?

(矢澤)1年くらいです。通常の3倍ほどの時間がかかっています。商品として、電子レンジが使えないとランチボックスの意味がないし、何%なら配合できるか、ひたすらテストを繰り返しました。通常、サンプルは2つか3つですが、今回は10数のサンプルをつくりましたね。竹中さんにも「しぶといね」と言われながらも、やりきりたい思いがありました。

(神谷)こちらの商品は、かたちやサイズの違いのバリエーションがあって、機能もそれぞれ違うんですよね。最初、試作品で見た飯盒のスタイルだけかと思ったら、最終的に全部で6種類あったんですよね。

−商品の開発において、どういう点が難しかったですか?

(矢澤)一番難しかったのは、ライスレジンを混ぜることによって、嵌合(蓋が容器本体の外側ではまる蓋のこと)の蓋をうまく閉めることでした。配合や混ぜ合わせ方を微調整しながら試行錯誤を繰り返しました。

(神谷)先程お話しにあったお米のおもちゃシリーズは、販売開始から十数年経過していますが、開発をはじめて2年間くらいして、1度あきらめているんです。だから結局は、担当の方の熱意、何とかしてライスレジンを使って商品化したいという熱意がかたちになるんだと思います。

デザインをきっかけに、環境のことにも関心を持っていただきたい

−2月に発売されたばかりの第2弾は、スロベニアのアーティスト、メタ・ヴラベルさんのアートが描かれているんですよね。すごくかわいいと思うのですが、起用された理由を教えてください。

(最所)もともとブランドが、ロンドンやパリなどヨーロッパにオリジンがあるので、ヨーロッパのデザイナーさんとは頻繁に仕事をしています。たくさんの候補者がいるなかで、今こういう水彩風の柄がトレンドになっていて、一緒に取り組もうということになりました。ランチボックス以外のデザインも手がけてもらっています。

−サスティナブルなデザインと相性がいいですよね。

(矢澤)前回の第1弾のときはお米の地の色を活かしたのですが、今回は着色してみました。

−挑戦的な試みですよね。お客様の反応はいかがでしたか?

(矢澤)お店をまわって反応を実際に聞きますと、お客様自身がまだ環境にいいものを持とうというマインドにはなれていないのかな、というのが正直なところです。でも、続けていくことが大事だと思っています。

−デザインがかわいいので、デザインから入って、結果として環境にもよかった、みたいに思ってもらえるような気がします。

(最所)そうですね。私たちも店舗のスタッフの声は常時聞いていて、お客様からは「お米の香りがする」「そういう素材でつくっているんですね」など、驚きのコメントをいただいているようです。お米の存在がプラスになっています。また、私たちは百貨店などの商業施設に出店しているケースが多いのですが、施設の方から取り組みをお褒めいただいたり、サステナブルフェアへの出店にお声がけいただいたりするようになりました。ただ、現時点では、環境にいいというのが購入の際の第一優先にはならないと思うので、使い勝手やユーザーフレンドリーなところは手を緩めず、そのうえで環境に配慮しているという点を評価してもらえるようになれば、と考えています。

毎日使うもののなかにライスレジンが含まれる世の中に

−顧客層はどのあたりを想定されているのですか?

(最所)生活雑貨の良さとは、何歳になってもランチボックスはランチボックスだし、タオルはタオル、年齢はあまり関係無いと考えています。そういう意味で、ランチボックスについては、どこの層に購入してほしいというのは意識していません。ですが、Z世代をはじめとした若い世代は授業などで環境のことを学んでいるので、共感を呼びやすいかもしれないですね。

(神谷)ほんとうにその通りで、我々の素材や事業に興味を持っていただけるのも小学生とか中学生が多いし、我々も出前授業のようなかたちで、取り組みを伝えたり、正しい知識を知っていただいたりしたいと思っています。彼らが 20代、30代になり、市場をつくっていくときに文化となっているように。まだ時間はかかると思うんですけど。身近なものを通して文化を伝えられることを率先してやっていただいて喜びを感じます。

−今回はランチボックスでしたけど、今後、どのようなコラボレーションの可能性がありますか?

(最所)家でも使ってもらえるように、食器やカトラリーとか。余談ですが、プラスチックのカトラリーをスーパーで無料配布しているのは、(環境先進国の)フランスなどでは考えられないらしいです。日本ではホテルの歯ブラシなども使い捨てですけど、バスルームまわりなども含めて、石油由来の合成樹脂製のものはすべてに可能性があると思っています。そのためには、素材メーカーと小売の間の、今回の竹中さんのような製造メーカーの役割が重要になってきますね。

(神谷)我々は素材メーカーなので、ユーザーは加工メーカーになるんですけど、最近よく耳にするのは、買い手が求めるものが変わってきているということです。サザビーリーグさんのような企業の取り組みの影響が、少しずつ広がってきていることを実感しています。先鞭をつけていただいたんじゃないかな。

−これからコラボレーションしてみたいものはありますか?

(神谷)日常生活のなかで、毎日使ってもらえるものですね。あえてライスレジン、ではなくて、普通に使っていたらたまたまライスレジンだった、という方向に早くなっていきたいので。特別なものじゃなくて、身近なものになっていくとありがたいです。実は私の名刺もライスレジンを20%含んだものに新調しました。以前はできなかったんですけど、素材だけでなく、加工技術も日々進化しているので実現できました。我々から専門的な加工技術を持つメーカーをご紹介できることもあると思うので、いつでもご相談ください。